現代社会において、バッテリーは必要不可欠なものです。iPhoneやノートPCなどのガジェットには必ず内蔵されていますし、テスラの電気自動車などにも使われています。そして今必要とされているのが、大規模な太陽光や風力発電によるエネルギーを貯蔵するための巨大バッテリーです。
大規模なエネルギー貯蔵をどのように行うかは、多くの意味で、持続可能な社会を実現するための課題です。そして、そのバッテリーの姿は、想像とは異なるものかもしれません。
*Category:テクノロジー Technology|*Source: ,BALKAN GREEN ENERGY NEWS ,ENERGY STORAGE ,揚水発電(Wikipedia)
太陽光や風力のエネルギーを貯蔵する超巨大バッテリーの意外な仕組み
現代では基本的に、私たちが電気をつけたりするとき、その瞬間にどこかで誰かが発電したものを使用しています。つまり、今使っている電気は非常に新鮮なものなのです。
ところが現在では、状況は変わりつつあります。従来の火力発電所の発電量は調整できますが、風力発電や太陽光発電は、必要な時に必要なだけの電力を供給してくれるとは限りません。
この自然のエネルギーを貯めておいて、必要なときに放出することができれば、これらのエネルギーは火力発電所並みの信頼性を持つことができます。しかし、今後より使用する純粋な電力量が増えていくことを考えると、当然ながらエネルギー貯蔵の必要量も増えていくでしょう。
そこで多くの企業が取り組んでいるのが、巨大な電池の開発です。そして、その巨大な電池の一つがこの山なのです。
ファーストライト・パワー社は、ニューイングランド地方で、再生可能エネルギーとエネルギー貯蔵を運営しています。同社が巨大なバッテリーとして使っているのがノースフィールド・マウンテンです。
ノースフィールド・マウンテンの中にあるこの施設は、非常にユニークなものです。山の内部から切り出されたこの施設は50年前に建てられたものですが、同時に、将来のエネルギー転換を推進するための理想的な立地条件にあります。
この巨大なバッテリーの仕組みは、「揚水発電」と呼ばれるものです。揚水発電では、電力があるときにポンプで上部の貯水池に水をため、必要な時には逆に下部貯水池に流すことで発電します。ノースフィールド・マウンテンの場合、120ヘクタール(東京ドーム25.6個分)の上部貯水池が山の上にあり、下部貯水池はコネチカット川となっています。
いたってシンプルですが、やっていることはまさに巨大なバッテリーでの蓄電と放電です。ノースフィールド・マウンテンでは、瞬間的に1,200メガワットの電力を供給できるとのこと。これは、ニューイングランドの約100万世帯分の電力にあたります。
揚水発電は1世紀以上の歴史があります。当初は、必要なときに必要なだけ水力発電をするために使われていましたが、70年代に原子力発電が誕生し、電力需要がないときでも発電所を常に稼働させなければならなくなると、揚水発電が余剰電力の貯蔵に使われるようになったのです。
現在さらに取り組みが進んでいるのが、原子力発電ではなく、太陽光や風力などの自然エネルギーとの組み合わせです。ニューイングランドでは、何年も前から計画されていた大規模な洋上風力発電プロジェクトが実現しつつあります。ノースフィールド・マウンテンのような施設を組み合わせれば、大規模な洋上風力発電とバランスを取りながら、その電力が必要とされる時に備えて蓄電することができるのです。
しかし残念ながら、このような巨大バッテリーには複数の問題点もあります。その1つが、特殊な地形が必要になることです。一般的には、川があるか、降雨量が一定で水にアクセスしやすい丘陵地でなければ、何十年にもわたって運用することはできません。
揚水発電の大規模プロジェクトが直面する障害の1つは、コストです。これらのプロジェクトは、現在では10億ドル規模のプロジェクトです。信頼性の高い発電を継続的に行うためには、多額の資本投資が必要です。
しかし、それでもこのような揚水発電の施設は増えつつあります。スペインの多国籍電力公益企業であるイベルドローラ社は、ポルトガルで2,000メガワット超の揚水発電所「Tâmega Gigabattery」を稼働させ、スイスでも同様の設備を稼働させました。
また、エストニアはロシアのエネルギーからの独立を目指すため、225メガワットの揚水式エネルギー貯蔵施設の建設を計画しています。これは廃坑を揚水発電の貯水池として利用するという新しい試みで、エスティ・エネルギア社はこの技術を地形的に従来の揚水発電が困難な国々に輸出できる可能性があるとしています。
また、日本国内にも揚水発電の施設は40ヶ所以上存在し、総出力は26,000メガワットと世界最大規模です。しかし、個々の貯水量が欧米に比べ小規模なため、設備利用率がわずか3%と非常に低いことが課題となっています。