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撲滅されたはずの「人類の脅威となる物質」がいまだに流出していると科学者が警告

禁止された化学物質が、なぜか今も大気中に驚くほどの勢いで蓄積していることが、学術誌「Nature」に掲載された研究により明らかになりました。

*Category:サイエンス Science *Source:The Verge ,Nature

禁止されたはずのフロンが大気中に急増


この禁止された化学物質とは、かつて空調や冷蔵に広く使用されていたフロンです。フロンは冷媒として広く使われたほか、エアゾールスプレーや発泡スチロールの包装、断熱材などにも使われています。

しかし、フロンはオゾン層を破壊するという危険性を秘めていました。オゾン層は太陽からの有害な紫外線を吸収し、地上の生態系を保護しています。これが破壊されると、紫外線を直接浴びてしまうことで、皮膚がんや白内障の発症リスクが上がるとされています。

1980年代、研究者によって南極上空のオゾン層に穴が開いていることが研究者によって発見され、1987年にフロンを規制するモントリオール議定書が採択されました。これによりフロンは、2010年に全世界で生産と消費が完全に禁止されています。

これによってオゾン層は、過去数十年の間に目覚ましい回復を遂げました。しかし今回の発表で、一部のフロンの濃度が上昇し、2020年には過去最高を記録していたことが判明したのです。

スイス連邦材料科学技術研究所のシュテファン・ライマン氏ら研究者は、5種類のフロンの排出量が増加していることを発見しました。これらのうち3種(CFC-113a、CFC-114a、CFC-115)はモントリオール議定書の抜け穴をついたものです。フロンが使用されていた製品はほとんど存在しないはずですが、企業は技術的に、代替品の製造過程でフロンを使用することが許されています。つまり、フロンを原料として、新しい化学物質を作るための材料として使用することができます。

これらのフロンは、エアコンや冷蔵庫、消火器などでフロンの代わりに使われているハイドロフルオロカーボン、つまりHFCの製造に使われています。テックメディア「The Verge」によれば、HFCは、地球を暖める力が二酸化炭素の数百倍から数千倍もある「超」温室効果ガスだそうです。


そのため、モントリオール議定書のキガリ改正案(2016年)に基づき、2047年までにHFCの使用量を85%削減することが求められています。これによって企業は、HFCやその他の化学物質の製造に起因する漏れを封じ込め、残存するフロンを減らすことができるはずでした。しかし、このようなフロン類の排出量は増加しているため、そうなっていない可能性があることが、今回の研究で示唆されています。

科学者たちは、世界各地でしっかりとしたモニタリングが行われていないこともあり、何が汚染の上昇を引き起こしているのかを正確に把握することができません。この新しい研究の著者たちは、世界中の14カ所でフロンを測定しました。

そして問題は、HFCの製造にも使われていない2種類のフロン(CFC-13とCFC-112a)の排出量増加の原因です。これについては、研究者たちも未だに模索段階にあります。さらに暗中模索している。ライマン氏は記者会見で、「私たちは、この物質がどこから来ているのかよく分かっておらず、それは本当に少し怖いことです」と述べました。

今のところ、この新しい論文で研究された5種類のフロンによる汚染は、オゾン層破壊物質の大部分を除去するための数十年にわたる作業を打ち消すほどではないようです。しかし、これらの排出がより大きな問題となった場合、オゾン層の回復を遅らせる可能性がある、と研究者は警告しています。また、気候変動による新たな脅威をもたらす可能性もあるとのこと。

しかし今回この問題が明らかになったのは、幸いだったともいえるでしょう。アメリカ海洋大気庁とブリストル大学の研究員であるルーク・ウェスタン氏は、記者会見で「これらの排出を根絶するのは簡単なことだ」と述べています。

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