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ハエを死ぬまで操る〝ゾンビ菌〟の恐るべきメカニズム

ハエをゾンビ化させる菌「E.muscae」について、米国ハーバード大学の研究者が解析し、謎につつまれたメカニズムの一部が明らかになっています。

*Category:サイエンス Science *Source:Science Alert ,eLife

「E.muscae」に感染したハエがとる謎の行動


この菌は、Entomophthora muscae(E.muscae)と呼ばれ、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を主に寄生対象とします。この菌がハエに寄生すると、ハエの行動が著しく変化し、普段なら避けるであろう高い場所へ移動するようになります。

「ゾンビ」ショウジョウバエの寄生虫によるサミング行動の神経機構

E.muscaeに感染した「ゾンビフライ」は、過去167年間(Cohn, 1855)、科学文献で知られているが、その行動操作のメカニズムについてはまだ謎に包まれている。E.muscaeを実験室で培養することは困難であり、イエバエのような典型的な宿主種は実験的なアクセスが困難である。最近、ミバエに感染するE. muscaeの株が単離され、道具を必要とするモデル生物であるDrosophila melanogasterの実験室ベースの「ゾンビフライ」システムの確立に用いられ(Elya et al., 2018)、操作された行動の基礎となる特定のホストメカニズムの調査を可能にした。


— 出典:eLife

菌は、ハエが生きている間に消化器官と生殖腺を食べ、宿主が市に至る前に逃走を開始します。ハエの口吻に生えたカビは、糊のような効果でハエを動けなくします。そして、ハエは死ぬ間際に羽を伸ばして背中から離し、結果として菌の逃げ道を確保するのです。


これだけでも十分奇妙ですが、本題はここからです。菌に寄生されたハエは「ゾンビ」となり、奇妙な行動をとり始めることが知られています。感染したハエは自ら高所に登って口吻を伸ばし、粘着性のある液滴を放出して地表に接着します。そして、翼を体から大きく持ち上げ、胞子を空中に露出させるポーズをとります。これにより、菌はより多くのハエに感染することが可能になるのです。

このゾンビ化のメカニズムは長らく未解明でしたが、今回、ハーバード大学の研究チームは、細胞生物学者で自称ゾンビ学者でもあるキャロリン・エリヤ博士を中心に、ゾンビハエの行動を詳細に調査しました。その結果、ゾンビ化したハエが高所へ移動する行動は死の約2時間半前から始まるということが明らかになりました。

研究の中で難易度が高かったゾンビ化したハエの特定は、機械学習を活用して解決しました。機械学習により、ゾンビハエをリアルタイムで特定し、その行動を測定し、関与する遺伝子やニューロンを特定することができました。

さらに、真菌の細胞は主にハエの脳の特定の領域を狙い、サーカディアンシステムと神経分泌システムを管理し、特定のホルモンを放出させていることが明らかになりました。「これらの神経細胞を不活性化すると、ハエは高所に上るのがとても下手になる」とエリヤ博士は語ります。


興味深いことに、ハエがE. muscaeに感染すると、血液脳関門の透過性が高まることも発見されました。これにより、ハエの血液中の物質が脳に影響を与えることが可能となり、その結果、感染したハエと健康なハエでは血液中の化合物の濃度に違いが出るという結果につながりました。

しかし、全ての謎が解けたわけではありません。E. muscaeがなぜ時間を守れるのか、どの化学物質が関与しているのか、ゾンビ化反応を引き起こすには真菌細胞が物理的に脳に到達しなければならないのかといった疑問は、まだ解明できていません。とりあえずは、この菌が人間に感染するようにならないことを願うばかりですね。

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