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アインシュタインの脳は盗まれていた! 23年間行方不明だった「人類最高の知性」が辿った数奇な運命とは?

当時の科学の常識から外れた特殊相対性理論や一般相対性理論を生み出した、人類史上でも類を見ない天才として知られている理論物理学者アルベルト・アインシュタイン。

彼の脳が現存していることはよく知られていますが、実はそれが明らかになったのは、彼の没後23年が過ぎた後でした。そもそも遺体の火葬を望んでいたアインシュタインの脳がどのように盗まれ、なぜ見つからなかったのかについて、海外YouTubeチャンネル「the Infographics Show」が解説しています。



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*Category:テクノロジー Technology *Source:The Infographics Show,wikipedia(1),(2)

アインシュタインの脳が「勝手に盗まれていた」衝撃の事件


アインシュタインは、死後、自分の遺体を火葬し、偶像崇拝を防ぐために遺灰を密かに散布して欲しいと具体的な指示を残していました。彼は自分が有名人であることを十分承知しており、記念碑や研究対象になることを嫌っていたのです。

アインシュタインは、1955年4月17日の夜、腹部大動脈瘤破裂でプリンストン病院に運ばれ、翌朝早くに息を引き取りました。その日、病理医として待機していたのは、トーマス・ストルツ・ハーヴェイ氏でした。彼の本来の目的は心不全の原因を特定することです。

しかし、ハーヴェイ氏はアインシュタインの死後、遺体を解剖する指示がなかったにもかかわらず、研究対象として脳を摘出することにしたのです。彼は、アインシュタインの脳の研究を主導し出世のチャンスとして利用しようとしたのでしょう。そして彼は、脳をホルマリン漬けにし、自宅に持ち帰りました。


当然、ハーヴェイ氏にはアインシュタインの脳を取り出す権利も、それを自分のものにする権利もありません。後日、ハーヴェイ氏が脳を持ち帰ったことを知ったアインシュタインの息子であるハンス・アルベルト氏は当然ながら憤慨しました。脳を無断で持ち帰ることは窃盗であり、倫理的にも問題があります。


しかし最終的に、脳を科学的研究に使用すること、そしてその結果を信頼できる科学雑誌に掲載することを条件に、脳の研究を進めることは許可されました。


ハーヴェイ氏はアインシュタインの脳を調べるも、自分の手に負えない状態でした。なぜなら、彼は、脳外科医でもなければ、脳の専門家でもないからです。彼はただ、相対性理論、光電効果を考えた優秀な脳を失うことが嫌だったのです。当然ながら、脳を無断で持ち出したことによって、ハーヴェイ氏は職を失っています。


そこで、ハーヴェイ氏は脳を携えてフィラデルフィアへ向かいます。そこには、脳の切り出しに使うミクロトームと呼ばれる珍しい器具がありました。そして、脳を240個に切り分け、セロイジンというゼラチン状のゴムのような物質に包んで保存しました。

ハーヴェイ氏は、この脳を2つのガラス瓶に分け、地下室に保存しました。しかし、20年間、脳はそこに置かれ、研究発表は1件もありませんでした。やがてハーヴェイ氏と脳は中西部に移り、70年代半ばにカンザス州のウィチタに落ち着きます。


1978年「ニュージャージー・マンスリー」という地方誌に勤めるスティーブン・レヴィ氏というジャーナリストが、アインシュタインの脳を探す仕事を任されました。その雑誌の編集者は、アインシュタインの伝記で、彼の体は火葬されましたが、脳だけが科学研究のために保管されていることを知っていたのです。しかし、アインシュタインが亡くなってから22年、脳については誰も何も発表していません。

レヴィ氏は、ウィチタにいるハーヴェイ氏を探し出し、説得の末、アインシュタインの脳について記事にすることができました。この記事が1978年8月号に掲載されると、マスコミは大騒ぎしました。そして、科学者たちはアインシュタインの脳に興味を持ちました。


その後、1984年、ハーヴェイ氏からカリフォルニア大学バークレー校のマリアン・ダイアモンド博士に脳の4ブロックが送られます。しかし、脳組織がセロイジンで保存されていたため、検査方法が限られ、実験結果にも欠陥が出る可能性がありました。


1985年、ハーヴェイ氏とダイアモンド博士の共同研究者たちは、アインシュタインの脳は、神経細胞とグリア細胞の比率が異常であると発表しました。この研究に続いて、アインシュタインの脳は、個々の細胞や特定の構造に違いがあることを報告する5つの研究が発表されました。これらの研究は、知能の神経学的基盤を明らかにすることを目的としています。しかし、この研究は、現代科学ではほとんど信用されていません。


ハーヴェイ氏は脳を盗むという大それたことをしたにも関わらず、大きな成果を生み出せなかったのです。2007年にハーヴェイ氏が亡くなった後も、脳はハーヴェイ家が所有していましたが、2010年にメリーランド州シルバースプリングにある国立保健医療博物館に脳全体の写真14枚を含む遺品が移されました。


アインシュタインの脳の科学的な意義はまだ議論の余地がありますが、文化的な意義としては大きなものがあります。しかし、何よりも問題なのが、ハーヴェイ氏が脳をもっと徹底的に研究できる科学者に渡さず、40年間ほとんど自分のものにしていたことです。

そして、天才の脳を盗んだにも関わらず、ハーヴェイ氏にそれを分析する能力がなかったというのは、なんとも皮肉な話です。結局のところ、天才を理解できるのは同じぐらい優れた天才だけなのかもしれません。

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